ジェンダーの教養を身につける 治部れんげさん著「炎上しない企業情報発信」

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本の紹介

※この記事はライター組合のブログ・note部「初心者ライターにおすすめの本一冊を紹介」の企画に参加し、執筆したものです。

 

近年、CMや広告がたびたび炎上しています。炎上は企業のイメージダウンになることも。初心者ライターさんはクラウドソーシングを通じて、さまざまなジャンルに提案していると思います。

悪気なく書いた表現が炎上を招いてしまうのは怖いですよね。炎上は知識をつけることで予防もできると考えています。

治部れんげさんの「炎上しない企業情報発信」では、炎上させないためのジェンダーの教養を学べます。

「CMや広告が炎上している理由がよくわからない」

「炎上させるのは怖いけれど、何から勉強したらいいかわからなかった」

「正直、一部のうるさい人が気にしているだけだと思っている」

そんな人に読んでいただきたい一冊です。

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過去の炎上事例から学べる

「炎上しない企業情報発信」では、過去の事例からなぜ炎上したのかを学べます。

例えば、2015年に公開されたルミネのCMは、主人公の女性に対し上司らしき男性が「顔疲れてんな、残業?」と聞き、主人公は「普通に寝ました」と返答。
それに対し男性は「寝てそれ?ははは」と。更に他の女性社員と比較し、「あの子とは需要が違う」と主人公に言います。

CMの中では「需要」の定義の説明もあり、「職場の華ではない」という意味で使われていると解説。

主人公の心の声で「最近、さぼってた?」と流れ、セクハラに怒るのではなく、職場の華として見られることを応援しているような構成です。

治部さんは

”「女性は職場の華」という発想を前面に出した動画が非難されるのも無理はない。動画に登場する上司の言動にはジェンダーに基づく偏見やパワー・ハラスメント(パワハラ)を思わせる要素が何度も見られた”(p36)

と解説しています。

当時このCMを見たときに、セクハラに対して主人公が「頑張らなくては!」となるのは、CMの作り手がこのやり取り自体をセクハラだと認識していないのではないか、という印象も受けました。

何が問題かピンとこない人のために、男女を入れ替えた解説もされていて、

”「いや、こんな会話は成立しない」と思った方には「なぜか」を考えていただきたい”(p37)

とも投げかけています。

「炎上しない企業情報発信」では、

  • 資生堂インテグレートCM
  • サントリー<頂>CM
  • 宮城県の観光PR動画
  • ムーニーのPR動画

といった過去の炎上CM・広告についても解説。

書き込みのできるワークシートもついていて、なぜ炎上したのか、一緒に考えながら知識をつけられます。

ジェンダー炎上の歴史がわかる

数年前、CM炎上が続いた頃、広告炎上をテーマとしたシンポジウムに参加しました。

その中で紹介されたのが「私、作る人 僕、食べる人」というフレーズが印象的なハウスシャンメンのCMです。
若い女性と小さな女の子が自分を指差し「私、作る人」と言い、若い男性が「僕、食べる人」と言います。

治部さんは

”このCMの問題は「食事を作るのは女性の仕事」であり「男性は出された食事を食べる」という固定的な性別役割分担を肯定的に描いたところにある。現実を見れば、女性も食事をとるから「作る人」だけではない。女性も「作って食べる人」であるにもかかわらず、CMでは「作る人」の部分だけが強調されている”(p79)

と指摘しています。

小さな女の子にまで「私、作る人」と言わせている構造は、小さい頃から「女らしさはこういうものだ」と植えつけているようで、今だったら完全にアウトだと思います。

ただ、このCMが放送されたのは1975年、45年前です。男女雇用機会均等法も施行前、セクハラという言葉も広まっていなかった頃。

問題視されたとは聞いてはいたものの、どのように問題視されていたのかは(今みたいにネットで炎上するわけでもないですし)あまりピンときていませんでした。

「炎上しない企業情報発信」では、「国際婦人年をきっかけとして行動を起こす女たちの会」がハウス食品を訪問する様子、ハウス食品の担当者がどのような回答をしているかが紹介されています。

最近は炎上に対して「ご不快にさせて申し訳ございませんでした」という謝罪表現がよく使われます。

しかし「不快にさせたこと」が悪いのではなく、何がまずかったのか理解し、なぜそのように作られたのか原因が究明され、同じことが繰り返されないことを炎上広告に怒っている人は望んでいるのではないでしょうか。

当時のハウス食品の対応は学べるところがあります。どんな対応か気になった人は読んでみてください。

具体的な注意点が記されている

「ジェンダーに関することなら女性に聞けば大丈夫!」と思っていたり、「意思決定に女性が一人いれば女性の意見を反映させている」と思っていたりしませんか?

治部さんは

”炎上した製品・サービスのCM動画において、女性が意思決定に関わっている例も少なくない。つまり、女性の担当者や管理職を据えるだけでは、必ずしも問題の回避にはならないのである”(p220-221)

と指摘しています。

色々な女性がいて、男社会の中で生き残るために、昔ながらのジェンダー観を内面化させている女性もいます。

それに、もし読者のあなたが男性だったら、例えば女性9人男性は自分1人みたいな場面で自分の意見=男性の意見とされるのには違和感を覚えませんか?

私はジェンダーを勉強していても、女性だからという理由で一人で背負わされるのは重いと感じます。私の考え方が全て正しいわけではないですし、間違えることもあると思うからです。

例えば出産や子育てに関わる内容でしたら、自分が経験していないのでわからない部分もありますし、むしろ父親として家事・育児をされている男性の方が詳しいかもしれません。

治部さんは

”性別だけにこだわるのではなく、様々な属性の人が自由に意見を言える組織を作ることが、遠回りだが、企業の発信の質を上げる”(p223)

と述べています。

”男女の役割意識は変化する”
”国外にジェンダー視点を踏まえたメッセ―ジを出そう”

など今日から使える考えやアクションも提案されています。

炎上を防ぐためにジェンダーの知識を身につける

「初心者ライターにおすすめの一冊」というテーマでは少し変化球だったかもしれません。

ですが、ジェンダーの知識をつけておくことで、自分が炎上させるのを防ぐだけでなく、クライアントの炎上を防ぐお手伝いができる可能性があります。

もやもやする表現について、なぜだめだと思うのか理由を説明でき、代替案を提案できるようになれば、クライアントとってあなたは替えのない存在になるかもしれません。

ただし、SEOライティングでは、私が見てきた中では一部のジャンルで、伝統的な男らしさ・女らしさを記事に出していくことを求めている案件もありました。

どうするかはあくまでクライアントの意向は前提とはなりますが、知識として持っていることはメリットになると思います。

私はジェンダーやフェミニズム関連の記事執筆をすることが多いですが、別のジャンルでも、今までジェンダーを勉強してきたことでお受けできた案件がありました。(ジェンダーの勉強は終わりがないとも感じていて、まだまだ勉強中でもあります)

ジェンダーの知識があることで仕事の幅が広がるとも思うので、「炎上しない企業情報発信」をおすすめしたいです。